認知症の親の運転をやめてもらうには?家族ができることと相談先

介護と老後の準備

親の運転を見ていて、「今のは危なかったな」と感じる場面が増えると、家族としては事故が起きる前にやめてほしいと思います。ところが本人は、「まだ運転できる」「車がないと困る」と受け入れてくれないこともあります。

車は、買い物や通院のための移動手段だけでなく、自分で出かけられる自由や、これまでの暮らしとも結びついています。「危ないから返納して」と伝えるだけでは、話が進まないこともあります。

この記事では、親の運転に不安を感じたときの確認ポイントから、本人への伝え方、家族だけでは進まないときの相談先、運転をやめた後の暮らしまで整理します。

まず「危ない」を具体的にする

「危ない」と感じても、どの場面がどう危なかったのかが曖昧なままだと、本人にも伝わりにくくなります。

まずは、事故やヒヤリとした出来事、運転中の変化などを具体的に整理してみましょう。「年齢的に心配」ではなく、実際に起きていることを見るのがポイントです。

事故やヒヤリを事実で整理する

「最近、運転が危ない気がする」と感じたら、まずは実際に起きたことを整理しておきます。

たとえば、車の擦り傷やへこみが増えた、駐車で何度も切り返すようになった、交差点でヒヤッとした、よく知っている道で迷った――といった出来事です。

本人に話すときも、「もう危ないから」だけでは反発されやすくなります。「いつ・どこで・何があったのか」を具体的にしておくと、家族の心配を伝えやすくなります。

一度の失敗だけで判断するのではなく、同じようなことが繰り返されていないかも見ておきましょう。

  • 車の傷やへこみが増えた
  • 駐車や車庫入れに時間がかかるようになった
  • 信号や標識を見落としたことがある
  • 道に迷った、行き先を間違えた
  • 家族が同乗してヒヤッとする場面があった

家族が同乗して確認する

本人から「問題なく運転している」と聞いていても、実際の様子は分からないことがあります。心配があるときは、可能であれば家族が一緒に乗ってみると、変化に気づきやすくなります。

見るのは、運転の上手下手ではありません。交差点で周囲を確認できているか、速度を状況に合わせられているか、右左折や車線変更で迷うことが増えていないかなど、以前の運転と比べて変わったところがないかを確認します。

ただし、運転中に「危ない!」「今の見えてなかったでしょ」と責めると、本人が動揺することもあります。気になった場面は覚えておき、安全な場所に着いてから話すほうが落ち着いて伝えられます。

なぜ運転をやめたくないのか

本人が運転をやめたくないのには、その人なりの理由があります。

「まだ運転できる」と思っていたり、車が通院や買い物に欠かせなかったり、運転すること自体が自信や役割につながっていることもあります。拒否の背景を知ると、話し合うポイントも見えやすくなります。

「まだ運転できる」という感覚

本人にとっては、長年続けてきた運転が急に「危ないもの」になったという実感を持ちにくいことがあります。

「事故は起こしていない」「近所しか走らない」「いつもの道だから大丈夫」と考え、家族の心配を大げさに感じることもあります。家族が感じている危険と、本人の感覚にズレがある状態です。

このズレがあるまま「もう危ないからやめて」と繰り返しても、本人には納得しにくいものです。まずは、本人が自分の運転をどう捉えているのかを知ることが、話し合いの入口になります。

道草さん
道草さん

本人には本人なりの『大丈夫』の理由があることもあります。

車が生活の足になっている

車を運転できなくなると、買い物や通院、銀行、畑、友人との交流など、これまで車で成り立っていた生活が一気に変わることがあります。

特に公共交通が少ない地域では、「運転をやめる=自分で出かけられなくなる」と感じやすくなります。

そのため、本人が拒んでいるのは免許返納そのものではなく、車を失った後の生活への不安ということもあります。何に困りそうなのかを先に整理しておくと、代わりの方法を考えやすくなります。

自信や役割を失う不安

運転は、本人にとって「自分のことは自分でできる」という自信につながっていることもあります。

家族を病院へ送る、買い物を頼まれる、孫を迎えに行くなど、運転することが家庭や地域での役割になっている人もいます。そこに「もう運転しないで」と言われると、自分自身を否定されたように感じることがあります。

だからこそ、話し合うときは「できなくなったから取り上げる」という形にならないように注意し、運転をやめた後も本人が自分らしく過ごせる方法や役割を一緒に考える視点をもつことがポイントです。

家族だけの説得で進まないとき

家族が何度話しても、「まだ運転できる」「大丈夫」と受け入れてもらえないことがあります。

そんなときは、アプローチの仕方を変える必要があります。本人が何に納得できていないのかを確かめながら、話を進めていきます。

責めずに事実を伝える

「もう危ないからやめて」「事故を起こしてからでは遅い」と強く言われると、本人は責められているように感じ、かえって話を聞き入れにくくなることがあります。

伝えるときは、「この前、交差点で信号に気づくのが遅れていたよね」「最近、車の傷が増えているのが心配なんだ」など、実際に起きたことと家族が心配している理由をセットで伝えると、話の焦点がぶれにくくなります。

「年を取ったから」「認知症だから」と本人の変化を理由にするのではなく、運転中にあった出来事を客観的に伝えることがポイントです。

運転をやめた後の困りごとを聞く

本人が返納を拒んでいるときは、「車がなくなったら何に困る?」と聞いてみると、話が進むきっかけになることがあります。

通院、買い物、畑、友人との交流など、本人が心配していることが分かれば、「どうやって運転をやめてもらうか」だけでなく、その困りごとをどう補うかという話に切り替えられます。

「病院には誰が連れて行く?」「買い物はどうする?」と具体的に考えていくことで、本人にとっても運転をやめた後の生活を想像しやすくなります。

道草さん
道草さん

実際に、車を手放して外出の機会が減ると、一気に認知症の症状が進む方も多いので、ここは大切なポイントです。

家族の対応をそろえる

家族の中で、「もう絶対に運転させたくない」という人と、「近所なら大丈夫では」という人に分かれることもあります。

対応がばらばらだと、本人も誰の話を聞けばよいのか分からなくなり、「○○は運転していいと言っている」と話が戻ってしまうことがあります。

まず家族の間で、どんな出来事を心配しているのか、今どの程度の危険を感じているのかを共有しておきます。そのうえで、誰が中心になって本人と話すのか、どこまでを家族で対応するのかを決めておくと進めやすくなります。

それでも話がまとまらないときは、家族だけで説得を続けず、医師や安全運転相談窓口、地域包括支援センターなど第三者につないでいきます。

第三者に相談する

家族だけで話し合っても進まないときは、第三者に入ってもらうことで状況が動くことがあります。本人も、家族以外の人から言われることで受け止め方が変わることがあります。

運転そのものの相談、認知機能や体調の相談、今後の暮らしの相談では、頼れる先が少しずつ違います。困っている内容に合わせて、相談先を使い分けていきましょう。

かかりつけ医

物忘れや判断力の低下など、運転だけでなく日常生活にも気になる変化があるときは、まずかかりつけ医に相談できます。厚生労働省も、認知症が気になるときの相談先の一つとして、かかりつけ医を挙げています。

診察の場では本人が「特に困っていない」と話すこともあるため、家族が気づいた変化を具体的に伝えておくと状況を共有しやすくなります。

たとえば、「最近車を何度かぶつけている」「道に迷ったことがある」など、運転中に実際に起きたことを伝えるのがポイントです。必要に応じて、専門医療機関などにつながるきっかけにもなります。

【事故の危険が高いと感じるとき】

明らかに運転が危険な状態であれば、本人が納得するまで待つより、その日の運転を避けることを優先します。車の鍵を預かるなど、その場の安全を確保したうえで、今後の運転については医師や安全運転相談窓口などに相談して考えていきます。

安全運転相談窓口

「本人が運転をやめてくれない」「この状態で運転を続けてもよいのか不安」というときは、警察の安全運転相談窓口に相談できます。

本人だけでなく家族からの相談も受け付けており、全国共通の電話番号は「#8080(シャープハレバレ)」です。電話をかけると、その地域を管轄する都道府県警察の相談窓口につながります。(警察庁)

安全運転に関する助言のほか、自主返納の制度や返納後の支援について相談できます。認知症が疑われる場合などには、医療機関への受診を案内されることもあります。

「家族が何度言っても聞いてくれない」という段階でも相談できる窓口として覚えておくと安心です。

地域包括支援センター

運転をやめた後の生活まで含めて相談したいときは、地域包括支援センターも相談先になります。

地域包括支援センターでは、高齢者の保健・医療・介護などの相談を受け、必要に応じて医療機関や認知症初期集中支援チームなどの関係機関につなぐ支援を行っています。厚生労働省も、認知症に関する主な相談先として案内しています。(厚生労働省)

「運転をやめると通院できない」「買い物はどうしたらいいのか」「家族だけでは対応しきれない」といった問題は、免許だけではなくその人のこれからの暮らしの問題です。

地域包括支援センターでは、本人の生活状況や家族の困りごとを一緒に整理しながら、利用できる制度や支援につなげてもらえます。

運転をやめた後の暮らしも考える

運転をやめると、通院や買い物、外出など、これまで当たり前にできていたことが難しくなる場合があります。本人がこれまで通りの生活をできるだけ続けられるように考えていくことが大切です。

通院や買い物だけでなく、趣味や友人との交流など、外出の機会まで減ってしまうと生活の楽しみも小さくなりやすくなります。移動手段だけでなく、これまでの暮らしをどう残すかという視点で考えていきます。

車がなくなると困る場面を整理する

運転をやめた後は、「どこへ行くときに車を使っていたか」を具体的に見直します。

通院や買い物だけでなく、銀行、理美容院、趣味の集まり、友人宅など、普段の外出を書き出してみると、何を別の手段で補う必要があるのかが見えてきます。

たとえば、路線バスやタクシー、家族の送迎、宅配サービスなど、使える手段は一つとは限りません。行き先ごとに使える方法を組み合わせておくと、車を手放した後の暮らしも具体的に想像できます。

外出や人とのつながりを残す

車を使わなくなると、用事だけでなく、ちょっとした外出まで減ってしまうことがあります。

これまで車で出かけていた趣味の集まりや友人との交流まで途切れてしまうと、暮らしそのものが大きく変わります。だからこそ、通院や買い物の方法を確保するだけでなく、本人が楽しみにしていた外出をどう続けるかも一緒に考えておきたいところです。

家族がすべて送迎する形にせず、地域の交通手段や周囲の協力も組み合わせながら、「車がなくても出かけられる方法」を探していきます。

道草さん
道草さん

病院と買い物だけでなく、“楽しみのための外出”も残したいですね。

まとめ|返納だけをゴールにしない

親の運転が心配になったときは、「どうやって免許を返してもらうか」だけに目が向きがちです。けれど、本人にとって運転は、買い物や通院だけでなく、自由に出かけられることや自信にもつながっています。

家族だけで話が進まないときは、かかりつけ医や安全運転相談窓口、地域包括支援センターなど、第三者の力を借りる方法もあります。事故を防ぐことと、運転をやめた後の暮らしをどう支えるかを一緒に考えることが、次の生活につながっていきます。

免許を返納して終わりではなく、車がなくても通院や買い物、外出を続けられる方法まで考えておく。本人も家族も、少し先の暮らしを見通しながら話を進めていけるといいですね。