認知症と診断されても、すぐに一人暮らしが難しくなるとは限りません。実際には、できていることと、少し支えがあれば続けられることが混在している場合もあります。
一方で、食事や薬の管理、外出時の安全など、暮らしの中に少しずつ気になる変化が出てくることもあります。
一人暮らしを続けられるかを考えるときは、認知症の診断名だけではなく、今の生活がどのくらい成り立っているか、どんな支援があれば続けられそうかを一緒に見ていくことがポイントです。
認知症でも一人暮らしを続けられる場合がある
「認知症」と聞くと、一人で暮らし続けるのは難しいのでは、と考えることがあります。
ただ、認知症の症状や生活への影響は人によって違います。身の回りのことを自分でできている人もいれば、いくつかの場面で支えがあれば生活を続けられる人もいます。
まずは、診断名だけで判断せず、実際の暮らしの様子を見ることから考えていきます。
一人暮らしの可否は診断名だけでは決まらない
認知症と診断されても、生活への影響の出方は人によって違います。
物忘れがあっても、食事や着替え、買い物などの日常生活を自分で続けている人もいます。一方で、見た目には普段どおりに暮らしているようでも、薬の飲み忘れや支払いの滞りなど、家族が気づきにくいところで困りごとが増えている場合もあります。
そのため、一人暮らしを続けられるかを考えるときは、「認知症だから」「要介護になったから」といった区切りだけではなく、実際の生活がどのように成り立っているかを見ることが欠かせません。
暮らしの様子と支援体制を合わせて考える
一人でできないことが増えてきても、それだけで一人暮らしが難しいとは限りません。
たとえば、料理が難しくなっても配食サービスで食事を確保できたり、薬の管理が不安でも家族や訪問看護、薬局などの支えで対応できたりすることがあります。
反対に、本人ができていることが多くても、緊急時に助けを求められない、近くに支援する人がいないなど、生活を支える体制によっては不安が大きくなることもあります。
「本人にできること」と「周囲が補えること」の両方を見ることが、一人暮らしを考えるうえでの大きなポイントです。
一人暮らしで確認したい生活のポイント
一人暮らしを続けられるかを考えるときは、普段の生活の中にどんな変化が出ているかを見ていきます。
本人は「いつも通りにできている」と感じていても、家族から見ると少しずつ気になることが増えている場合もあります。
ここでは、一人暮らしの様子を見るうえで確認しておきたいポイントを順番に見ていきます。
食事や水分はとれているか
認知症が進むと、食事をしたこと自体を忘れたり、反対に食べたつもりになって食事量が減ったりすることがあります。冷蔵庫に同じ食品がいくつも入っている、賞味期限の切れた食品が増えている、といった変化から気づくこともあります。
また、のどの渇きを感じにくかったり、水分をとること自体を忘れたりすると、脱水につながることもあります。
本人が「ちゃんと食べている」と話していても、言葉だけで判断せず、冷蔵庫の中身や食事の減り方、体重の変化など、実際の生活の様子から確認すると状況が見えやすくなります。
同じ食品が増えている・食品が傷んでいる・体重が減ってきた
薬を正しく飲めているか
毎日決まった時間に薬を飲むことは、認知症があると少しずつ難しくなることがあります。
飲み忘れだけでなく、「まだ飲んでいない」と思って同じ薬をもう一度飲んでしまったり、反対に薬が大量に残っていたりすることもあります。薬の種類が多いほど、本人だけで管理する負担も大きくなります。
薬の管理に不安が出てきたら、家族だけで対応方法を考えるのではなく、ケアマネジャーや訪問看護、薬剤師などと相談しながら、本人に合った管理方法を整えていくことがポイントです。
飲み忘れ・重複して飲む・薬が大量に残る
火の管理や戸締まりに問題はないか
火の消し忘れや戸締まりは、一人暮らしの安全を考えるうえで特に確認したいところです。
鍋を火にかけたまま別のことを始めてしまう、ガスコンロの火を消したか覚えていない、玄関や窓の鍵を閉め忘れる、といったことが繰り返されるようになると、事故や防犯面の心配が大きくなります。
一度の失敗だけで判断するのではなく、同じことが繰り返されているか、本人だけで安全を保てているかを見ていきます。必要に応じて、IH調理器への変更や自動消火機能、見守り機器など、環境を整える方法もあります。
同じ失敗が繰り返されているか・本人だけで安全を保てているか
お金の管理ができているか
認知症による変化は、お金の管理にも表れることがあります。
これまで問題なくできていた支払いを忘れる、同じものを何度も買う、通帳や財布の置き場所がわからなくなる、といったことが増えてきたら、生活への影響を確認したいところです。
また、判断力の低下につけ込まれて、不要な契約や詐欺被害につながることもあります。支払いの遅れや買い物の変化など、普段のお金の使い方に違和感がないかを見ていきます。
支払いの遅れ・同じ物を何度も買う・通帳や財布の紛失
外出して自宅に戻れているか
買い物や散歩など、外出を続けられていることは本人の生活にとって大きな意味があります。
一方で、いつもの道で迷う、帰宅までに以前より時間がかかる、目的地に着けないといった変化が出てくることがあります。昼間は問題なくても、夕方や夜になると混乱しやすくなる場合もあります。
外出そのものをやめるかどうかではなく、どこまでなら安全に出かけられるか、迷ったときに助けを求められるかまで含めて考えると、今の状態をつかみやすくなります。
どこまでなら安全に出かけられるか・迷ったときに助けを求められるか
体調が悪いときに助けを求められるか
一人暮らしでは、普段の生活だけでなく、急な体調不良や転倒が起きたときにどう対応できるかも重要です。
具合が悪くても誰にも連絡できない、転倒したあと自分で助けを呼べない、救急車を呼ぶ判断が難しい、といった状況があると、日中は問題なく暮らせていても不安が大きくなります。
家族や近所の人、見守りサービスなど、何かあったときに気づいてもらえる仕組みがあるかも、一人暮らしを考えるうえで確認しておきたいポイントです。
連絡できる相手・見守りの仕組み・緊急時の対応
一人暮らしを支える主な支援
一人暮らしの中で少し難しいことが増えてきても、支援を組み合わせることで生活を続けやすくなることがあります。
介護保険サービスだけでなく、配食や見守り、家族や地域の協力など、使える支え方はいくつかあります。
ここでは、一人暮らしを支える主な方法を見ていきます。
介護保険サービスを利用する
一人暮らしの中で難しくなってきたことがあれば、介護保険サービスで補える場合があります。
たとえば、訪問介護で掃除や買い物などを手伝ってもらったり、デイサービスを利用して食事や入浴、人との交流の機会をつくったりできます。体調管理が必要な場合には、訪問看護につながることもあります。
まだ介護保険を利用していない場合は役所の介護保険課や地域包括支援センター、すでに担当のケアマネジャーがいる場合はケアマネジャーに相談すると、今の生活で困っていることに合わせて、必要な支援を整理しやすくなります。
介護保険や地域包括支援センターについてはこちらの記事でくわしく説明しています。
配食や見守りサービスを利用する
介護保険以外にも、一人暮らしを支えるサービスがあります。
配食サービスは、食事を届けてもらえるだけでなく、事業者によっては受け渡しの際に安否を確認してもらえるものもあります。見守りサービスにも、センサーや緊急通報機器、定期的な電話確認など、さまざまな方法があります。
毎日家族が訪ねるのが難しい場合でも、こうしたサービスを取り入れることで、離れていても変化に気づきやすい環境をつくることができます。
家族や地域の人と役割を分ける
一人暮らしを支えるとき、家族だけで見守ろうとすると負担が大きくなりがちです。
たとえば、家族は通院や買い物を手伝い、近所の人には「最近姿を見かけないときだけ気にしてもらう」など、できる範囲で役割を分ける方法があります。民生委員や地域の見守り活動につながることで、家族以外の目が増えることもあります。
一人の家族がすべてを抱えるのではなく、いくつかの支えを組み合わせることで、一人暮らしを見守る体制をつくりやすくなります。

お金や手続きの管理を支援してもらう
公共料金の支払いや銀行での手続き、福祉サービスの利用手続きなどが難しくなってきたときは、その部分だけ支援を受ける方法もあります。
家族が手伝うほか、判断能力がある程度保たれている場合には、社会福祉協議会などが行う「日常生活自立支援事業」を利用できることがあります。福祉サービスの利用手続きや、日常的なお金の管理などを支援してもらう制度です。
さらに判断すること自体が難しくなってきた場合には、成年後見制度などを検討する場面もあります。まずは、どの手続きや管理に困っているのかを整理して、地域包括支援センターなどに相談すると、その人に合う支援につながりやすくなります。
一人暮らしが難しくなるサイン
一人暮らしを続けていると、少しずつ支援を増やしても、暮らしを支えきれなくなってくることがあります。
大事なのは、ひとつの失敗だけを見るのではなく、同じトラブルが繰り返されているか、支援を入れても安全を保ちにくくなっていないかという点です。
ここでは、一人暮らしを見直す目安になりやすいサインを見ていきます。
同じトラブルが何度も起きる
鍋を焦がす、薬を飲み忘れる、道に迷う、支払いを忘れるなど、一度きりの失敗で一人暮らしが難しいとは判断できません。
ただ、同じようなトラブルが繰り返され、生活への影響が大きくなっている場合は、今の支援だけで暮らしを支えられているかを見直す目安になります。
家族がその都度フォローできていても、対応する回数が増えてきたときは、本人の暮らしだけでなく、支える側の負担も含めて考えていきます。

確認したいのは「できなかったこと」より、「同じことが何度も起きているか」です。
支援を受けること自体が難しくなる
サービスを増やせば生活を支えられる場合もありますが、認知症が進むと、その支援を受けること自体が難しくなることがあります。
たとえば、ヘルパーを知らない人だと思って家に入れない、訪問の予定を忘れる、デイサービスの迎えを拒むといったことです。本人にとっては、なぜその人が来るのか、なぜ出かけるのかが分からず、不安につながっている場合もあります。
こうした状態が続くと、必要な支援があっても実際には利用できず、一人暮らしを支える仕組みが機能しにくくなります。
夜間や緊急時の安全を保ちにくくなる
日中は介護サービスや家族の見守りがあっても、夜間まで同じように支えられるとは限りません。
夜中に外へ出てしまう、転倒しても助けを呼べない、急な体調不良に自分で対応できないなど、誰もいない時間帯の安全を保つことが難しくなってきたときは、一人暮らしの続け方を見直す大きなサインになります。
支援を増やしても安全を確保しにくい場合は、家族との同居やグループホーム、施設など、住まいを含めて考える段階に入ることもあります。
まとめ|一人暮らしを続けるかは、暮らし全体で考える
認知症があっても、一人暮らしを続けている人はいます。大切なのは、診断名だけで判断するのではなく、食事や服薬、安全面などの生活状況と、周囲の支援を合わせて見ることです。
できにくくなったことがあっても、サービスや見守りを取り入れることで暮らしを支えられる場合があります。一方で、同じトラブルが繰り返されたり、支援を受けること自体が難しくなったりしたときは、今の暮らし方を見直すサインになります。
本人がどんな暮らしを望んでいるかを大切にしながら、安全に暮らせる方法を家族や専門職と一緒に考えていく。
一人暮らしを続けるかどうかは、その積み重ねの中で考えていくものです。




