「知らない番号からの電話には出ないでね」「お金の話は、その場で決めないでね」。そう伝えていても、詐欺や怪しい勧誘を完全に防ぐのは簡単ではありません。警察や役所を名乗る電話、訪問販売、SNSや広告をきっかけにした投資勧誘など、手口はさまざまです。
普段はしっかりしている人でも、不安をあおられたり急かされたりすると、冷静に判断しにくくなることがあります。だからこそ、本人に注意してもらうだけでなく、家族が変化に気づき、怪しい話を一人で決めない仕組みを作っておくことが備えになります。
この記事では、高齢者を狙う詐欺や怪しい勧誘の主なパターン、家族が気づきたい変化、被害を防ぐための備え、困ったときの相談先まで順番に整理します。
高齢者を狙う詐欺や怪しい勧誘は、身近なところから始まる
高齢者を狙う詐欺や怪しい勧誘は、特別な場面だけで起こるものではありません。電話や訪問、SNSや広告など、普段の生活の中に自然に入り込んできます。
しかも、最初から「怪しい」と分かるとは限らず、警察や役所などを名乗ったり、親切そうに話しかけたりして信用させるケースもあります。
まずは、どのような入り口から近づいてくるのか、代表的なパターンを見ていきましょう。
警察や役所などを名乗って不安をあおる
「あなたの口座が犯罪に使われています」「逮捕状が出ています」などと警察官を名乗って不安をあおり、お金を振り込ませる手口があります。警察手帳や逮捕状のようなものをビデオ通話で見せ、信用させようとするケースも確認されています。
役所などを名乗り、「還付金がある」とATMへ誘導する手口もあります。相手が公的な機関を名乗ると、それだけで信用してしまいやすいものです。
「誰にも話さないで」「今すぐ手続きして」などと急かされたときは、いったん電話を切って確認することが被害を防ぐポイントになります。
訪問や電話で契約を迫る
突然自宅を訪ねてきて、「近所で工事をしていて、屋根の傷みが見えた」「無料で点検します」などと声をかけ、点検後に高額な工事を勧めるケースがあります。屋根だけでなく、分電盤や給湯器などの点検をきっかけにしたトラブルも起きています。
こうした勧誘では、「このままだと危険」「今日契約すれば安くなる」など、不安や焦りからその場で決めさせようとすることがあります。もちろん、訪問してくる業者がすべて悪質なわけではありませんが、突然の訪問や電話から高額な契約の話になったときは、その場で決めないことが基本です。
国民生活センターも、突然訪問してきた業者に安易に点検させず、工事はすぐ契約せずに検討するよう注意を呼びかけています。

「近所で工事をしていて」「無料で点検します」「今日なら安くできます」…こんな怪しい言葉に気をつけて!
SNSや広告から投資・副業などへ誘う
注意したいのは、知らない人から直接連絡が来るケースだけではありません。SNSで見かけた広告をきっかけに、投資や副業などの話へ誘われることもあります。
たとえば、有名人を使った投資広告からLINEなどへ誘導され、「利益が出ている」と見せかけながら入金を繰り返させる手口があります。画面上では利益が増えているように見えても、出金しようとすると「手数料が必要」などと、さらにお金を求められるケースもあります。警察庁も、SNS型投資詐欺についてこうした手口を注意喚起しています。
SNSやスマホの中だけでやり取りが続くと、同居していない家族には気づきにくいところがあります。「最近、投資の話をするようになった」「知らない人とSNSで頻繁にやり取りしている」といった変化も、気づくきっかけのひとつです。
「だまされないように気をつけて」だけでは防ぎにくい理由
「だまされないように気をつけて」と伝えるだけでは、十分な対策にならないことがあります。
詐欺や悪質な勧誘では、「逮捕される」「このままだと危険」などと不安をあおったり、「誰にも話さないで」と周囲への相談を止めたりして、冷静に考える時間を奪おうとします。実際に警察官を名乗る詐欺でも、口止めしながら不安をあおる手口が確認されています。
そのため、本人が普段から注意していても、その場では判断に迷うことがあります。本人の注意力だけに任せるのではなく、家族が変化に気づき、困ったときに相談できる環境を作っておくことも被害を防ぐための備えです。国民生活センターも、高齢者の消費者トラブルでは、家族など周囲による「見守り」と「気づき」を重要な対策として挙げています。
次は、家族が気づきたい具体的な変化を見ていきます。
家族が気づきたい「お金」と「暮らし」の変化
詐欺や怪しい勧誘は、本人から相談があるとは限りません。むしろ、家族が先に「いつもと違う」と気づくことがあります。
急にお金を用意しようとしていたり、知らない業者からの電話や訪問が増えていたり、見慣れない契約書や商品が家にあったり。こうしたお金や暮らしの小さな変化が、トラブルに気づくきっかけになることがあります。
ここでは、家族が普段の様子の中で気づきたいポイントを見ていきます。
急にお金を用意しようとしていないか
「今日中にお金が必要」「銀行に行かなくてはいけない」など、普段はしないような動きが急に見られたときは、少し注意して様子を聞いてみましょう。
まとまった現金を引き出そうとしている、ATMへ急いで出かけようとしている、振込先について詳しく話したがらない、といった変化が、詐欺に気づくきっかけになることがあります。
ただし、お金を動かそうとしているだけで詐欺とは限りません。問い詰めるのではなく、「何か手続きがあるの?」「一緒に確認しようか」など、自然に話を聞けることが早めの気づきにつながります。
知らない業者の訪問や電話が増えていないか
以前より知らない業者からの電話が増えたり、見慣れない人が何度も家を訪ねてきたりしていないかも、確認したいポイントです。
特に一人暮らしの場合、家族が知らないところで「無料点検」「近所で工事をしている」「今なら安くできる」などと声をかけられ、そのまま話が進んでいることもあります。
訪問したときに、知らない業者の名刺やチラシが増えている、何度も同じ会社から電話が来ている、業者が来る予定について話すようになった。
こうした変化があれば、どんな話をしているのか一度確認してみると安心です。
こんな変化がないか確認
- 知らない業者の名刺やチラシが増えた
- 同じ会社から何度も電話が来る
- 「点検に来る」「工事の話がある」と言うようになった
見慣れない契約書や商品が増えていないか
実家を訪ねたときに、以前はなかった契約書や請求書、健康食品や日用品などが増えていないかも見ておきたいポイントです。
本人は「頼んだだけ」「勧められたから買った」と思っていても、定期購入になっていたり、必要のないサービスまで契約していたりすることがあります。工事の見積書や契約書が置いてある場合も、いつ、どのような説明を受けたのか確認してみましょう。
本人が内容をよく分からないまま契約している様子があれば、そのままにせず一緒に確認することが早めの対応につながります。
- 見慣れない契約書や請求書がある
- 同じ商品がいくつも届いている
- 知らないサービスの利用料が発生している
- 工事の見積書や契約書が置いてある
お金の話をすると口を閉ざすようになっていないか
これまでなら普通に話していたのに、急に「大丈夫だから」「あなたには関係ない」と話を避けるようになったときも、少し気にしておきたい変化です。
詐欺や怪しい勧誘では、「家族には言わないで」「この話は秘密にして」と言われることがあります。また、本人自身が「だまされたと思われたくない」「反対されるかもしれない」と感じて、話しにくくなっている場合もあります。
そんなときは無理に聞き出そうとせず、「困ったことがあれば一緒に確認するよ」と、話せる余地を残しておくことが大切です。
被害を防ぐために、家族で決めておきたいこと
詐欺や怪しい勧誘を防ぐには、本人が毎回その場で正しく判断できることを前提にしない方が安心です。
たとえば「お金や契約の話はその場で決めない」「相手の連絡先は自分で確認する」など、迷ったときの行動を家族であらかじめ決めておくと、急かされたときにも立ち止まりやすくなります。
ここでは、日頃から家族で共有しておきたいルールを見ていきます。
お金や契約の話は、その場で決めない
詐欺や怪しい勧誘では、「今日中に手続きが必要」「今契約すれば安くなる」など、考える時間を与えずに決断を急がせることがあります。
そのため、振込や投資だけでなく、訪問販売や住宅工事なども含めて、お金が動く話や契約は、その場では決めないと家族でルールを決めておくと安心です。
いったん電話を切る、業者には帰ってもらう、契約書を持ち帰って確認するなど、時間を置くだけでも冷静に考えやすくなります。
家族で決めておきたいルール
「お金を払う・振り込む・契約する話は、その場で決めない」
相手から教えられた番号ではなく、自分で確認する
警察や役所、銀行などを名乗る相手から連絡があったときは、相手が伝えてきた電話番号だけを信用せず、いったん連絡を切って確認しましょう。
確認するときは、公式サイトや通帳、カード、これまでに届いた書類などから、自分で正しい連絡先を調べて問い合わせるのがポイントです。
「本当に役所からの連絡なのか」「銀行がこのような手続きを求めているのか」を別の方法で確認できれば、相手の話をそのまま信じてしまうリスクを減らせます。
電話やスマホに迷惑電話・詐欺対策をしておく
「怪しい電話には出ないようにしよう」と思っていても、毎回相手を見分けるのは簡単ではありません。そこで、怪しい相手とできるだけ接触しないよう、電話やスマホの機能を使っておくのもひとつの方法です。
固定電話なら留守番電話を基本にして、相手を確認してから出る。スマホなら迷惑電話の警告や着信拒否、迷惑メッセージを振り分ける機能などを確認しておくと安心です。
機種や契約しているサービスによって使える機能は違うため、親が設定に慣れていなければ、家族が一緒に確認しておくとよいでしょう。
電話でできる対策
- 留守番電話を活用する
- 知らない番号にはすぐ出ない
- 迷惑電話・迷惑メッセージ対策機能を確認する
- 不要な番号は着信拒否にする
怪しいときに誰へ相談するか決めておく
実際に「これは怪しいかも」と感じたとき、慌てている状態で相談先を探すのは意外と難しいものです。
「まず娘に電話する」「つながらなければ息子に連絡する」など、お金や契約の話が出たときに誰へ相談するかを、あらかじめ決めておくと動きやすくなります。
家族だけで判断しにくい場合は、消費生活センターや警察など、公的な相談先を利用する方法もあります。詳しい相談先については、このあと紹介します。
「怪しい」と思ったとき、すでにお金を払ってしまったときの対応
「怪しいかもしれない」と気づいたときは、そこで終わりではありません。すでに振り込んだり、契約したりしていても、早めに動くことで対応できる場合があります。
まずは相手とのやり取りや契約書、振込記録などを残し、利用した金融機関や相談窓口へ連絡します。「もう払ってしまったから仕方ない」と決めつけず、できるだけ早く相談することがポイントです。
ここでは、怪しいと感じたときや、すでにお金を払ってしまったときに確認したい対応を見ていきます。
電話番号やメッセージ、契約書などを残しておく
怪しいと感じたら、相手とのやり取りをできるだけ残しておきましょう。
着信履歴や電話番号、SMSやSNSのメッセージ、契約書、請求書、振込明細などは、あとで相談するときに状況を説明する手がかりになります。相手から届いたメッセージも、慌てて削除せず保存しておくと安心です。
「いつ・誰から・どんな話をされ、いくら支払ったのか」を分かる範囲で整理しておくと、その後の相談も進めやすくなります。
- 相手の電話番号・着信履歴
- SMSやSNSのメッセージ
- 契約書・請求書・名刺
- 振込明細や支払いの記録
振込やカード利用があれば金融機関へ早めに連絡する
すでにお金を振り込んでしまった場合は、できるだけ早く警察と振込先の金融機関へ連絡します。振込先の口座にお金が残っていれば、「振り込め詐欺救済法」によって被害金の全部または一部が支払われる可能性があります。ただし、必ず返金されるわけではありません。
クレジットカード情報を入力してしまった場合や、身に覚えのない請求がある場合も、すぐにカード会社へ連絡しましょう。カード会社によっては申し出の期限が設けられている場合があります。
「もう支払ったから遅い」とあきらめず、早めに連絡することがポイントです。
振り込んでしまった → 警察+振込先の金融機関へ
カード情報を伝えた・不正利用がある → カード会社へ
消費生活センターや警察などへ相談する
訪問販売や契約、怪しい勧誘について「これっておかしい?」と迷ったときは、消費者ホットライン188(いやや!)に相談できます。最寄りの消費生活センターなどの相談窓口につながり、契約や悪質商法などの消費者トラブルについて相談できます。
詐欺が疑われる場合や、警察に相談した方がよいか迷う場合は、警察相談専用電話#9110があります。全国共通の番号で、電話をかけた地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながります。
「まだ被害かどうか分からない」という段階でも、一人で判断せず相談して大丈夫です。

まとめ|「だまされないで」より、相談できる仕組みを作っておく
詐欺や怪しい勧誘の手口は次々と変わるため、すべてを見抜くのは簡単ではありません。だからこそ、「だまされないように気をつけて」と本人に任せるだけでなく、お金や契約の話が出たら一度立ち止まり、誰かに相談できる仕組みを作っておくことが備えになります。
普段から家族で話しやすい関係をつくり、電話や訪問、暮らしの中の小さな変化にも目を向けておく。もし怪しいと感じたときは、一人で抱え込まず、消費生活センターや警察なども頼れます。
また、同じような契約や送金のトラブルが繰り返される、本人がお金の出入りを把握しにくくなっているといった場合は、詐欺対策だけでなく、これからのお金の管理方法について考えるタイミングかもしれません。家族だけで抱え込まず、必要に応じて地域包括支援センターなどへ相談する方法もあります。
お金の管理そのものが気になり始めたときは、こちらの記事でも家族が確認しておきたいことをまとめています。



